パソコンボランティア入門セミナー

第2回目

日時 2002年4月27日(土) 10:00〜12:00
場所 障害者スポーツ文化センター横浜ラポール 2階大会議室 2階大会議室
■ 主催  横浜ラポール
     ピアネット・ドリームナビゲーター横浜




■ 「肢体障害のある方に必要な援助」
  講師 畠中 規 (横浜市泥亀福祉機器支援センター)



(寺澤) 本日は第2回パソコンボランティア入門セミナーにご参加くださいまして、ありがとうございます。今日のテーマは「肢体障害のある方に必要な援助」ということで具体的なツール、支援方法を学んでいきたいと思います。
私、横浜ラポール企画課の寺澤と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
それから受付の方で皆さまに資料をお渡ししてありますが、お手元にそろっているでしょうか。このオレンジの物と、もう一つは綴じた物の2種類です。そろっていない方は手を挙げてください。
それから今、正面左側の方で文字が動いていますが、本日パソコン文字通訳Y−CAPの皆さんが通 訳を務めてくださっております。こちらもどうぞよろしくお願いいたします。
 では、まずは本日のこの入門セミナーの一番初めの企画をしてくださっていますピアネット代表の小川さんの方から簡単にごあいさつをしていただきます。

**かながわパソコンボランティア・メーリングリスト**
(小川) 皆さんおはようございます。先生よろしくお願いいたします。この「パソコンボランティア入門セミナー」第2回目になりました。先生がいろいろと持ってきてくださっていると思うのですが、それが見えるようなかたちでやりたいということで、今日は特に人数を絞らせていただきました。空席が目立つように見えますが、実は20名と予定しました。それよりもっと多くの人が来られたので少し多めに入っていただいています。今日は少人数精鋭でしていければと思っています。
それからもう一つ、第1回目の時にせっかくこうしてみんなが集まったので交流できる場所が欲しいということで、川崎パソコンサポートボランティアの会長さんとDream Navigator Yokohamaの会長さんと私とで話をして、「かながわパソコンボランティア・メーリングリスト」ができました。今は既に20名の方に参加していただいています。最初はこのセミナーの方だけでと思いましたが、いろいろな要望を聞きまして、神奈川県つながりで、パソコンを使ってコミュニケートしたいという障害者のサポートをしている人、お母さん、お父さん、関係の人、それからボランティアの人、みんなが入れるようなメーリングリストにしようということで動いています。ですからぜひ皆さんも宣伝していただいて、皆さん自身もそのメーリングリストにお入りいただけるとありがたいと思います。入りたい方はピアネットのホームページにアクセスしてください。前回3月30日の報告が載っているところをクリックしていただくと、その下の方にこういうふうにしてくださいと書いてあります。そこでアクセスして申し込んでいただくようお願いしたいと思います。
本日も、私も含めてですがしっかり勉強していきたいと思います。よろしくお願いいたします。



(寺澤) ありがとうございました。それでは、早速セミナーを始めていきたいと思います。本日の講師は、横浜市総合リハビリテーションセンター、今はこのプログラムにあるように横浜市泥亀(でいき)福祉機器支援センターの方に急きょ異動されました畠中規さんです。畠中さんは実際に障害者の方に接しながら、さまざまな支援機器などを開発するお仕事も長年にわたって続けていらっしゃいます。ですので、今日は経験に基づいたいろいろな具体的なお話をしていただけると思います。どうぞ皆さんも楽しみにしてください。では、畠中さん、よろしくお願いいたします。



*肢体障害のある方に必要な援助*

(畠中) 今ご紹介をいただきました畠中と申します。午前中いっぱいお付き合いください。よろしくお願いいたします。
 今はこの隣の建物の横浜市総合リハビリテーションセンターの地域サービス室という部門が持っている、金沢区にある泥亀の福祉機器支援センターに勤務しています。エンジニアをしていまして、早いものでもう9年目くらいになりました。これまでずっと主にパソコン操作の支援や、コミュニケーション機器といわれている発語に問題がある方の声の代わりにしゃべってくれるような機械とか、環境制御装置といわれている例えば照明やテレビなどの身の回りの物を、その方が持っている残存機能を使って簡単に操作できるような機器などを、実際に私たちの利用者の皆さまに導入していくというお手伝いをしています。寺澤さんが「開発」と言われました機器開発をもっとしなければいけないのですが、全然手が回らずなかなかできていない仕事です。
 今日は2回目のセミナー、「肢体障害のある方に必要な援助」ということでお話をさせていただきたいと思います。皆さんの経歴や今していらっしゃることなどが全然分かりません。全くの初心者の方もいらっしゃると聞いています。もしかするともうかなりしていらっしゃる方には少し不満な内容になってしまうかも知れませんが、何か新しいことを持ち帰っていただければと思っております。
 
**適切な方法はその個々人によって全く違っています**

 レジュメに沿ってお話をしていきたいと思います。まず、こちらの白い紙のコピーのレジュメの最初のページにも書きましたが、肢体に障害のある方はその原因になっている疾患が何かということによって、持っている障害も本当にさまざまですし、私たちに何か援助ができるかどうかという内容や適切な方法はその個々人によって全く違っています。ですから疾患が全く同一でも同じメニューを用意すればそれで済むかというと、なかなかそううまくはいかないというところがやはりこの世界を難しくしている一つの原因だと思います。
 ただ、皆さんは既にご存じだと思いますが、障害がある方にも「日常生活用具制度」という国の制度を使って、一部分ではありますがパソコンを支給できるような道も開けてきました。ですので、さらに重い障害を持っている方もどんどんITというか、パソコンやコミュニケーションに必要な機器を活用していると思います。そういう人たちが全く今まで不可能だと思っていたことを実現したときには本当にいい顔をします。そういうものをまだ体験していらっしゃらない方は、これからぜひ体験していただきたいと思います。自分も何かそういうものに動かされてこの仕事をしているのではないかと考えています。

**ニーズは何なのかをどれだけ正確に探り当てられるか**
 何でもそうですが、やはりこの仕事のキーになっているものは、その人の必要なこと、ニーズは何なのかをどれだけ正確に探り当てられるかということです。商売などでも一緒だと思いますが、その人が何を求めているかをどれだけ正確に自分が把握できるかによって、成功するかしないかということがほぼ決まってしまうと思います。ですから、経験からということになるとは思うし、皆さんそれぞれ違うとは思いますが、そのテクニックというものを自分たちなりに身に付けていくことが一つの勉強だと思います。それから当然のことですが、情報機器や福祉機器といわれているものに対して、本当は深い方がいいのですが広く浅く知識を持つということが、その人の生活や置かれている状況を正確に把握するために必要になってくると思います。それが最初に述べてあることです。
 
**おおまかに5つ**
 これからお話しする内容は、おおまかに5つに分かれています。最初に「はじめに」というお話をしまして、それから、パソコン操作支援の要素。それから疾患の特性とパソコン操作における具体的な障害の内容。それから3番としてパソコンなどの福祉機器の導入の実例と留意点。それから4番として制度利用について。もしかするとこれは第1回と重なるところがあるかもしれませんが、前回聞いている人は復習をしてください。そういうことでお話をさせていただこうと思います。

**どれだけたくさんの人を巻き込むネットワークが作れるか**
 まず最初に言いたいのは、ピアネットの小川さんをはじめ、皆さまがこういうセミナーを企画したり日常的な活動をしながら努力されているように、どれだけたくさんの人を巻き込むネットワークが作れるかが、この仕事の鍵になってくるだろうと思います。最後の方でも言いますが、やはり情報機器の進歩自体がすごく速いスピードで進んでいるということで、今持っている知識が3カ月後には古くなってしまうわけです。にわか勉強したことはあまり長持ちしません。例えばパソコンならパソコンといったシステムなどについて深く勉強して根本から知っている方はいくらでも応用が利くと思いますが、自分のように上っ面 をなでたような勉強をしていると、なかなか応用が利かなかったりするわけです。ですから広く深い知識が求められてはいますが、深くという方はなかなか難しいものがあります。
そのときにどうするのかというと、人のネットワークが役に立ってきます。常に誰かを頼るというのではありませんが、誰に聞けば分かるのか、どこを調べれば分かるのかが分かっていると、自分が解決できない問題、本当に分からないことがあったときに、自分の勉強ということも含めて調べられます。それにはどうすれば調べられるかというノウハウが分からないとできないことだと思います。ですので、そういう意味で人のネットワークづくりを皆さん一人ひとりが心掛けて、自分が話をできる人、相談できる人を増やしていく。それが結果 的にこういうパソボラの集まりなどをだんだんと大きく強くしていくことだと思います。結局のところ、最後に頼れるのは機械ではなくて人の力です。機械は故障するし、壊れるし、古くなるので、機械に頼っているとうまくいかなくなることが起きてきます。
「はじめに」はこのくらいにして、1番のところに入ります。自分の話はパソコンの話に集中したり福祉機器一般 的な話をしたりとあっちに行ったりこっち行ったりします。そこのところは少し気を付けて聞いてください。

**「見ること」**
 先ほども言ったことで繰り返しになりますが、「ニーズの見極めというのは成功の鍵の90%」と適当に書いたのですが、ほとんどを占めていると考えていいだろうと経験的に思っています。ここで2つのことを書きましたが、ニーズの見極めに必要な基本というのは、これは経験的な話ですが「見ること」と「聞くこと」だと自分は思っています。
「見ること」。これからパソコン操作環境を整えていこうというその対象となる人やこれから操作をしようという本人がどういう体の機能を持っていらっしゃるのか。その身体機能の把握や、あるいは今実際に困難を抱えながらも何とか操作をしているのか、あるいは全くキーボードに触ることもできないのかどうなのかという実際の状況を評価する。この2つのことが「よく見る」ことだと思います。それを見ていれば、こうしたらどうかが分かってくると思うのです。「よく見ること」というのは、当然のことですが一つの鍵です。

**「よく聞くこと」**
もう一つは「よく聞くこと」です。自分もエンジニアなので、とかく自分の知識に頼りたがるところがあります。「俺の方が知っているから、言ったとおりにやればいい、うまくいく」などと別 に言わなくても、そのような気持ちがあるとやはり失敗します。そういうことは自分では考えつつも、相手がどういうことを言っているのかを聞くと、その中にその本人のいろいろなニーズに直結する話が隠れています。
あとはレジュメの方にも詳しく書いてありますが、周りのニーズです。普通は本人だけでパソコンの操作ができるわけではありません。完全に自立することができる方もいますが、大体の場合は何らかの介助やお手伝いが必要になってきます。ですので、その辺で自分のニーズだけではなくて、それを支える人のニーズも両方ともくみ上げてあげないと、やはりうまくいきません。
例えばこれもよくある話ですが、この人の操作の支援をするときに、どこまでを目標にするのか、どこまで自分一人でできるようにするのかという、よくリハビリの世界では「ゴール設定」といいますが、それがまた一つ大切な話になります。自分でどこまでやらせるのか、人にはどこまで手伝ってもらうのか。その辺の切り分けが必要になってきます。それから、「周りのニーズ」という中にはどんな人たちが含まれるかというと、一番大きいのは家族です。一緒に生活している家族の方。それからヘルパーさんとかも含めて、介護者の方。学齢期の方の場合には学校の先生が関与する場合もあります。それ以外にいろいろな施設に入っている方の場合には施設のスタッフの方とか、そういうさまざまな方が周りにはいます。

**できるだけ本人の話を直接聞くこと**

 ニーズについてレジュメの方に書いてありますが、できるだけ本人の話を直接聞くことも大切なことの一つです。周りが代弁してしまうと本人のニーズが隠れてしまうときが多いからです。どうしてかというと、周りに対する遠慮や配慮というものをみんな常に持っています。ここまでしてもらうのは申し訳ないというようなことも、そのときには聞こえなくても後からよく聞く話です。そういうこともありますので、可能な限り本人と1対1で話をしてください。それはほかの家族を排除してしまうという意味ではありません。その辺は自分なりに上手なやり方を見つけていってほしいと思います。
 何かこのような話ばかりしていてパソボラの話をしていないみたいですけれども。全然技術の話も出てこないし、何か精神論のような話をしていますが、ここのところがないと、いくら技術を導入しても駄 目なのです。ですからかったるい話ですが、きちんとそのステップは踏んでください。
 
**実際には何で困っているのか**
 もう少しパソコン操作の話らしい話に入っていきたいと思います。「ニーズの特定と解決の道筋」と書きましたが、これで解決するわけではありません。実際のニーズの特定はどのようにするのかというと、レジュメにも書きましたが、パソコンを操作したいというのは分かるけれども、実際には何で困っているのかということです。文字の入力で困っているのか。マウスでの入力は画面 上の座標を機械に与えているので座標入力というのですがそれが難しいのか。あるいは作業する姿勢が難しいのか。何とか操作はできるが作業している操作を保っているのがつらいのか。そういうこともあり得ます。必ずしもパソコン本体の悩みだけではないわけです。先ほども言いましたが、多くの人が何らかの介助が必要です。しかし実際には介助してくれる人がいないので介助者が必要だと。その場合には例えば、パソコンの操作をヘルプしてくれる人を頼むという公的な制度はありませんが、実際には毎日出入りしているヘルパーさんがいる場合にはその方に何とかお願いをして、「ちょっとこれを置いて、電源を入れるところまでしてもらえませんか」というようなこともあります。
 最初の2つの文字入力や座標入力については、操作をするために機械と自分との間の仲立ちをしてくれるもの、インターフェースの問題だと置き換えられると思います。操作用のインターフェースがうまくその人に合っていない場合は、まさにパソボラの人が本領発揮しなければいけない部分だと思います。もちろん皆さんはそれぞれに専門が違うはずで、強いところ弱いところがあるわけですから、みんながみんな技術的なことに強いと限らないわけですが、例えば一般 にパソコンに強いといわれている人たちの場合には、やはりここのところがパソボラの力を発揮する一つだと思います。
作業の姿勢の問題があるのではないかというときには、これもまたそういうエキスパートの方もいらっしゃると思います。その場合にはその方が直接相談に乗ってあげてもいいと思います。しかし、例えばその人が座りやすいいすがないのが問題だとか、ちょうどいい高さの机がないのが問題だとか、もっと座りやすいいすというだけではなく、その方が例えば体に変形があって普通 のいすには座れない場合には、座位保持という特殊なテクニックを使わなければならない場合もあります。その方がかかっている主治医の先生や整形外科やリハビリ科の先生、あるいは手前味噌ですがリハビリテーションセンターもそういう機能を持っていますので、そういうところにつないでいくことも皆さんがもしそれが必要ではないかと考えた場合にはパソボラの役割になってくるのではないかと思います。
 それから、介助者の問題や、制度利用の問題などについてです。この制度利用というのは何か機械を購入するための財源の問題、ファンドの問題も含みますが、そういう場合には、リソースといいますがその方が住んでいる地域の持っている社会資源との連携を取っていくということが必要になってくると思います。その場合には区役所の中にある福祉保健センター、昔は福祉事務所と言っていたのが今は保健所と福祉事務所が合体して福祉保健センターと名前が変わりましたが、そういうところに相談をつないでいくことが必要になるだろうと思います。

**解決に向けてその人を誘導していくという役割**
 こういうかたちでニーズは何かということをうまく特定して、その解決に向けてその人を誘導していくという役割をどなたかが担わなくてはいけないと。それもやはりパソボラの仕事なのではないかと自分は考えています。
 地域のリソースの中にはどのようなものがあるのか、雑ですが一応一通り書いてあります。区役所の福祉保健センター、リハビリセンター、病院、学校、それから訪問看護ステーション、ヘルパーさんや、福祉機器を実際に開発、販売する業者ということで、いろいろな資源があります。そういうものをうまく活用していけばいいのではないかと思います。
 
**障害を持つ原因となる疾患**
 次に、いろいろな障害を持つ原因となる疾患について、いくつかお話をしたいと思います。私はお医者さんではないので、こういう説明をするとこれは何だという話になってしまうかもしれませんが、おおよそのイメージを持っていただくという範囲での話だと理解してください。間違いがあったらごめんなさい。
「疾患の特性とパソコン操作における障害」ということで原因となる疾患の代表的なものをいくつか書き並べてみました。別 に正確な人数を把握しているわけではありませんが、まず多分一番多いというか、一番出会う確率が高いのはやはり脳性まひの方だと思います。脳性まひの場合はいろいろな種類があり、実にさまざまな発症の形態をとりますので、パソコンの操作支援がすごく難しいです。それから脊髄損傷とか頸髄損傷といわれているものや、筋ジストロフィー、ALSという名前は聞いたことがあると思いますが、そういう病気。それから脳血管障害、CVAですが、脳梗塞とか何かの原因での出血とかそういう脳の障害。それから、リュウマチも割とポピュラーです。それからSCDというのは脊髄小脳変性症というもので運動疾患、運動の失調というものが出てくる病気です。そのようなものが原因疾患の中に挙げられます。

**疾患別の傾向と対策**

 疾患別の傾向と対策ですが、先ほども言いましたが例えば脳性まひの人にはこれだけのメニューを用意すればもう大丈夫というものは何もありません。ですから、これは本当にあくまでも例だと思ってください。どの疾患もその方によってものすごく重い方、すごく軽度でほとんど分からないくらいの方と、本当にさまざまです。特に脳性まひの方の場合は、軽い言語障害があるくらいの方から全く身動きができないような状態の方まで本当にさまざまです。
 
**脳性まひ**
 ここからは少しレジュメの方を見ていただきたいのですが、脳性まひについてはここに書いてあるとおりです。恐らくパソコン操作の支援をしていく対象としてはやはり一番多いのではないかと自分は思います。原因は中枢神経の運動機能に起因するもの、出生時からの発症というものです。これは先天というわけではありませんが、要するに本当に生まれたときから持っている障害だと思います。人によってその重さも運動まひがある体の場所、身体部位 もさまざまで、痙直型(けいちょくがた)といってすごく強い緊張がある方や、弛緩型ともいいますが緊張がないというかぐったりした感じの方、またはアテトーゼ型といって自分の意図しない体の動き、不随意運動が激しく出る方。特に何かをしようと思ったとき、運動のプログラムを頭の中で立てたときにすごく不随運動とか緊張が出やすいのが脳性まひの特徴です。自分の頭の中ではこういうふうに手を動かすというのは分かっていても、そのプログラムのどこかがうまくいかないのだと思いますが、大きな円を描いて目的に到達するというような動きが出てきます。そういったものがミックスした混合型というものもあります。
 ほとんど動けないような重度の方は、場合によって知的の障害を伴う場合もあります。これは場合によってということです。それから、特に成長に伴って筋肉の緊張状態が左右でアンバランスになったりすることがあって、脊柱とか骨格とかに変形があることがあります。それに伴って痛みや感覚まひがある場合もあります。重度の場合には車いすで介助移動が必要になりますし、座るためのいすにも体の変形に合わせた特別 なものが必要な場合があります。
 
**よく使うのがキーボードカバー**
 脳性まひの方には「例えばどんな?」ということなのですが、一応キーボードの操作とマウスの操作ということで2つに分けてみました。よく使うのがキーボードカバーという一番オーソドックスなやり方です。これは上肢のまひによってキーボードの操作が難しいということで、例えば痙直型でこういうふうに動く方の手を突っ張って操作をするので、こうしてキーを押せれば一番いいのですが、場合によってはそこまでコントロールができなくて、例えばキーを横殴りにだーっと押してしまうという感じの操作になってしまうときがあります。その場合に有効なのがキーボードのカバーです。これは太古のキーボードカバーでほこりを払って引っ張り出してきたものです(笑)。作った物はみんなお客様に届けてしまうので、うちに残っているのはこのようなものしかないのです。見たことがある方はいらっしゃると思いますが、要するにキーの場所に穴を開けた透明な板です。これはアクリル板ですが、透明度が一番高いのでそれをキーボードにかぶせたようなものです。これはデスクトップ用のキーボードですが、ノートパソコンなどにかぶせることも可能です。前に一度、電話のキーを押すためのキーボードカバーを作ってもらったことがあります。
 レジュメの9ページくらいから先にパワーポイントのコピーがあるので、それに出ていると思います。キーボードカバーは一番オーソドックスな手法で有効なことが多いです。ですので、これは少し突っ込んでおきます。
 要するにキーの位置に穴を開けてあるだけのカバーですが、例えば指先に震えがある人、指先が安定しない人などが指探りでキーを押すことができるわけです。1個のキーを押しているときに隣のキーを押すことはないので誤操作が少なくなると。そういうために使っているものです。
 
**リストレスト**
 それからもう一つは、これだと少し分かりにくいですが、ノートパソコンなどの場合、手前の方に手を置くところがあります。リストレストといいますが、手首を置く部分が必要な人がいます。例えばこのキーボードの場合、そのリストレストの部分が少し小さいです。だから手を置いておくことが必要な場合には、その部分を少し大きくしてあげるという配慮が必要になります。それから、その手探りとか指先の震えの問題以外に、そもそもこの上に手を置いておければ疲れないということがあります。これも大切な話です。このキーボードカバーは「キーガード」という言い方をする場合もあります。
 
**キーボードカバー作成には**
 ほかの要素を見ていきます。キーの穴の大きさです。穴の大きさはほとんどの場合はキーボード自体の「キーピッチ」というキーとキーの間隔に左右されてしまいます。キーとキーの間隔は、特にノートパソコンの場合はとても狭いので、穴を大きくしてしまうと穴が全部つながってしまうわけです。だからキーのピッチによって大きさはある程度決まってしまうのですが、指が無理なく入る大きさがやはり必要なわけです。でもあまりにも大きくなってしまうとその人によって使いやすいかどうかはよく分りませんし、その辺はある程度試行錯誤しなければならないだろうと思います。
 それから、作ってもらうときにはキーの穴の大きさだけではなく、これはアクリルというかプラスチックの板なので、角があると危険です。指をけがします。特に緊張が強い脳性まひの方の場合、そこに指ががーっと入っていきますから、やはり角があった場合には指をざっくりと切ります。角をきちんと丸めて、研いでおいてもらうのがやはり作ってもらうときの基本です。
 すごく細かい話ばかりですが、キーボードは平らではなく、傾斜しています。ですからカバーの方もきちんと傾斜していて、まっすぐに穴を開ければキーにまっすぐ指が届きますが、角度が付いているので、その人の押し方によっては少し角度を付けてあげないとまっすぐキーに当たらない可能性があります。ですから押し方というところではよく見ておいてください。
 それから、穴の深さというのがあります。よく誤操作するけれども、カバーは嫌だという人が結構います。隣を押しても何でもいい、それは消せばいいと。指が間にぐっと入ってしまう人、引っ掛かってしまう人は嫌がります。その場合は、キーの位 置と面が合ってしまっては意味がありませんが、キーの高さに接近させて、カバーの高さを設定してあげればそれほど指が入り込むすき間というのがなくなります。当然、押し込んだときに入り込むすき間は少しできてしまいますが・・・。高さというものも実は微妙なものがあります。
 それからカバーの厚み。普通は問題ありませんが、カバーの厚みに問題が出るのはこういう使い方をする人です。どうしてもコントロールができなくてこうして使う人が1ミリとか2ミリの厚さのものを使った場合には遅かれ早かれバキッと割れて、本人もけがをすることになります。何ミリがいいという話ではないですが、そういうことが分かっている場合には、少し厚めに頑丈に作ってほしいとお願いする必要があります。
 それからカバーの固定の方法があります。これは優れていないと言ったら作った人に怒られてしまいますが(笑)、これは横からプラスチックのねじでギュッと締める格好になっています。自分はあまりこれは使いません。結局横から締める力はこうしてガタガタしていれば使っているうちに緩んできますから、外れやすくなります。指が引っ掛かりやすい人はこうして持ち上げてしまいます。そのときに横からの押さえでは、上に引っ張り上げられたらどこにも引っ掛かるところがないので抵抗のしようがありません。ですからよくあるすごく簡単な方法ですが、脇に細い穴を開けて糸か何かを通 すか、あるいは脇にマジックテープを付けて後ろ側にもこうして回すとこちら側の力には抵抗できますので、意外と有効です。
 
**マウスパッドはカーソルとびがあって**
 最近のノートパソコンはほとんどの場合、手前にマウスパッドが付いています。そこのところをどうするかも少し考えなければいけない話です。パソコンを借りておいてこういうことを言うのはすごく失礼ですが(笑)、僕はマウスパッドが大嫌いなのです。自分が下手なだけですが、キーボードを打っているとどうしても触れてしまうのです。それに触れると訳が分からないところにカーソルがポンと飛んで、何でそんなことをしてしまったのかなということが起きたりします。人によってはそれがすごく顕著になります。ですからマウスパッドが適している方の場合には当然それを生かすことを考えますが、そうではない方の場合、マウスパッドはタッチしなければ反応しませんから、カバーをしてしまうという選択も時にはあります。ちなみに今は多分、マウスパッドはほとんど静電式といって体が触れることで静電容量 が変わってそれをとらえるので、体が接触していることが必要になりますし、もう1種類は感圧式といって要するに押す力で反応しているマウスと2種類あります。どこの機種がどれというのは自分も覚えていません。感圧式は、今はほとんどないのではないかと思いますが、その2種類があるということも少し(覚えておいてください。)
 
**キーボード操作ではユーザー補助という機能が**
 少し話を戻しましょう。多分皆さんご存じだと思いますが、キーボード操作ではユーザー補助という機能がWindowsの場合にはあります。それを活用するということも大切です。MacのOSも持っているはずですが、自分は一番新しいMacのOSについていたかどうかというのは覚えていません。どなたかご存じですか。分かる人に教えてもらってください(笑)。自分も調べます。
 
**固定キー機能は合わせ技を分けられる**

 ユーザー補助の機能について説明をしておきます。印刷の方ではほとんど何だかさっぱり見えないですね。Windowsの「コントロールパネル」を開くと「ユーザー補助」という車いすマークのアイコンが出てきます。それを開くといろいろな機能をいじることができます。どういう機能が付いているかと言いますと、例えば「キーボード」の機能については、一番上のところですが、「固定キー機能」が付いています。これはいわゆる順次入力を可能にします。順次入力というのは、順番にキーを押すということです。それに対して、同時入力がありますが、それは(例えば)「Shift」キーを押しながら別 のキーを押すというものです。指の動きが完全に分離している人でしたら同時押しはしやすいのですが、指の動きの分離が難しい人の場合には、同時押しは難しいので、例えば「Shift」を押して「A」を押すとか順番に押すと。そうすると、1回「Shift」が押しっぱなしの状態になって、「A」のキーが押されるということが可能になってきます。これを「固定キー」と言います。
 
**Shiftロック**
 昔はそういうものがなかったので、それをするために「Shiftロック」というものをいろいろな人が考えて使いました。メカニカルなスイッチをこの「Shift」キーのところに挟んでおいて、ガチャッと押すとスイッチが降りた状態に、メカニカルにロックする方法です。1回押しておいて、何かを入力して、それを外すということをしていたのですが、今はWindowsの場合は、順次入力ができるようになっていますので、「Shift」キーを押せば、それで同時押しの入力ができます。皆さん、ほとんど知っているのではないかと思います。ただ、全部の機能を試したことがある人は割と少ないと思います。ですからこれを全部試してみるべきだと思います。(自分も)後からいろいろと発見しました。
 
**フィルターキーの機能はキーリピート**
 それからもう一つ、フィルターキーと書いてあります。フィルターキーの機能はキーリピート。よく言われるのは「キーリピートをオフする」と。キーリピートが何かというと、キーを押したときにダーッと入力が続くものです。今はワープロ(専用機)が日常生活用具と共になくなってしまいましたが、昔、ワープロの機能をいろいろためしていたときには、2種類ありました。キーリピートというものが全くないワープロと、押せばダーッとなってしまうものと両方ありました。障害のある方で、特に細かいコントロールが効きにくい方、脳性まひの人が多いですが、そういう人などの場合はキーリピートがあるとすごくやっかいです。押せばダーッと出てしまうし、消そうと思うとダーッと消してしまって、全然先に進まないということが起きます。このフィルターキーを使うと、一定時間押しておかなければ次が出てこないとか、あるいは全く押しっぱなしでも出てこないというフィルターを掛けることができますので、そういう押し続け、消し続けの対策になります。ただ、これが掛かっていると知らないで使うと、すごくうっとおしいです。全然押しても出てこなくて壊れてしまったのではないかと思うと、実はフィルターキーが掛っていたということがありました(笑)。
 
**テンキーマウスはマウスの動きをテンキーで**
「切り替えキー」はいいです。この矢印はマウスという・・・上の見出しですね。タブのところに矢印が行っているのですが、マウスの機能をテンキーで代用することができる「テンキーマウス」という機能が付いています。テンキーマウスは、これもやはりマウスが使いにくい人のための基本的なやり方です。マウスの操作をいくつかの方向のスイッチに分離してしまおうという考え方です。例えば、テンキーは「5」を中心にして、8方向のキーがあるように見えます。これを8方向の矢印と考えて、「8」のキーを押したときには、5番を中心にして上ですから、上向きにマウスのカーソルが動くと。そのようにして「5」を中心にして押したキーの方向にカーソルが動くと。要するにテンキーを押すことによって、マウスの操作をするという・・・。それ以外に「5」のキーが左クリックとか・・・「0」のキーは左ボタンのロック・・・。いくつかのキーにマウス操作がちりばめてあります。ですからテンキーを使うことによって、マウスの操作を代行できるという方法があります。
 話があっちに行ったりこっちに行ったりして申し訳ないですが、マウスの操作については、これは一般 論ですが、例えば先ほどの脳性まひの方の場合ですと、マウス自体を握ることが難しいとか、握らなくても何か・・・例えば取っ手みたいなものを付けてあげればそこに手を置けば動かせるといった工夫はいくらでもあります。しかし、握って操作することが少し難しい。あるいはよくあるのがやはり動きが安定しないので自分の希望の位 置になかなか止められない、手が動いてしまう。それから、ようやく「スタート」ボタンのところにようやくカーソルが来てクリックしようと思ったら、ガッと動いてしまって、ボタンをクリックしようと思うと、「クリックしなきゃ、クリックしなきゃ」と緊張が出て、そのときにガーッと動いてしまうとか。それから、マウスの操作には「ドラッグ」という「〜をしながら動かす」というものがあります。引きずる動作があります。それも要するに、「押しながら動かす」は、2つの作業を同時にしなければいけない。協調動作というのが必要になるので、それもやはり難しい人がいます。
 そういうものを解決する上で、一つのテクニックが「テンキーマウス」を使うことです。テンキーマウスにして、キーの押し分けができるのであれば、例えばクリックボタンを押そうと思ってガーッと動いてしまうということがないです。ただそのボタンを押すこと自体も難しい人の場合には、これにキーボードカバーをかぶせてあげて、テンキーを使ってマウスの操作をするともう少し安定するということがあるかもしれません。そういうかたちで、マウスの操作を助けるという機能も「ユーザー補助」の機能の中には付いています。これはぜひ、きちんと覚えてください。基本ですので・・・。
 では5分くらい休憩を取ります。少し眠くなってきたと思うので(笑)。

(寺澤)では、11時10分まで休憩します。10分には再開しますので、よろしくお願いいたします。

***休憩***

(畠中)先ほどのお話はマウスの動きをボタンに分けてしまおう。
 そして、これはその操作を機能に分けて単純にしようという考え方の製品です。この青いボタンがこの場合は8方向に動くボタンだとして、真ん中がスクロールの上下のボタン。それからこちら側にあるのがクリックのボタンです。それから先ほど言いましたが、ドラッグという押しながら動かす操作が難しいです。ですから押しっぱなしにしておけばいいということで、右ボタンや左ボタンをロックするボタンが付いています。
 
**らくらくマウス**
 それからもう一つ難しい操作が「ダブルクリック」です。あまり使わなくて済むと言えば、使わない方法はいくらでもあるのですが、ただあると便利だったりします。その場合は、ダブルクリックというボタンが付いていますので、それを使うと1回チョンと押しただけで、カチャカチャと機械がしてくれると。そういうものもありますので、思い当たる方がいらっしゃれば使ってみるといいと思います。
「らくらくマウス」を扱っているONE・STEP企画というところがありますが、そこは製品の試用ということで、有料ですがしています。買うときにその差額を払えばいいという制度も持っていますので、使ってみるといいと思います。
 マウスの操作ということでは、ボタン操作などは難しいと。でも、電動車いすに乗っていて、ジョイスティックで操作しているので、ジョイスティックの操作であればできると。そういう人の場合は、マウスをジョイスティックに変えてしまうというものもあります。そういうものを使えば、必ずしもマウスを使わなくても操作ができるということです。
 
**ボタンを押すのが難しいときには**
 ボタンを押すのが難しいときにはマウス自体は、例えばげんこつでガシャガシャと操作するとか、足で操作するとかはできる。ですが、ボタン操作ができない人の場合には、ここから加工して、ここからスイッチの部分の線を引っ張り出してきて、そして例えば外側にもう少し押しやすいスイッチを付けてという「クリックスイッチの分離」という方法もあります。そして押せるところで押すということです。足で押すとか何でもいいのですが、そういう方法もあります。
 
**頸髄損傷、脊髄損傷**
 次に、頸髄損傷、脊髄損傷の方です。これも脊髄損傷と頸髄損傷では大きく機能が違いますから、一緒に話をすることはおかしいのですが、バラバラにするときりがありませんので・・・。
 ご存じだと思いますが、主に交通事故、それから体育をしている最中の事故などで脊柱、背骨に損傷を負って、その損傷部位 がつかさどっている運動とか感覚にまひが出ます。ですから、例えば首の上の方の骨に損傷があったとします。脊髄に損傷があった場合には、ここから下の運動と感覚の機能がほとんどまひしてしまうというものです。
 脊髄は一個一個バラバラの骨の組み合わせになっています。そこに神経が通 っています。それに一個ずつ上からC−1、C−2、C−3・・・というように名前が付いています。おおよそC−3ぐらいから上というのは、呼吸機能といった生命維持の機能を損ねるので、C−3になると人工呼吸器を付けていないと生命の維持ができないという状態になるとほぼ考えていいと思います。C−4の場合ですと、呼吸はきついけれども何とかできる。でも、体温や血圧のコントロールなどに難しさが出てきます。体温調節、それから排尿・排便などにもケアが必要になります。それから呼吸に関連にして、排痰、痰が切れない。痰が切れないので痰をきちっと吸引器で取ってあげないといけないなど、そういうことが出てきます。
 それから、移動には車いすが必要になります。これは脊髄損傷という、もっと下の方の損傷部位 の方でもやはり移動は車いすが必要になってきます。
 
**感覚まひ**
 それから感覚まひがありますので、車いすに乗った場合でも適切なクッションなどをきちんと引いてあげなければ(なりません。)感覚まひがあるとおしりが痛いかどうかが分かりません。自分たちはおしりが痛いので今、こうしていますね。(時々座りなおして姿勢を変える。)これは何のためにしているかというと、「除圧」をしています。一点に圧力が集中したまま続いてしまうと、そこの血行が途切れ、そのままの状態がずっと続くと、そこに血も何も行かなくなるので、皮膚がやられてきます。真っ赤になり、もっとひどい状態になるとそこがベロッとむけてきて、褥瘡(じょくそう)という状態になります。褥瘡になると何が危ないかと言うと、感染症が危なくなります。そこからばい菌が入って、いろいろな感染症にかかってしまうと。ですから単におしりが痛いという状態ではなく、そういった生命の危険がある状態になってしまうということです。
 
**運動のまひ**
 そういうものが頸髄損傷、脊髄損傷です。具体的には運動のまひがその損傷の部位 によって起こります。例えば頸髄損傷の場合ですと、首から下は完全に肩も動かない。首は回せますが、それ以外は動かないという状態も極端な場合にはあります。
 
**マウススティック**

 そういう場合を想定してどうするか。例えばキーボードの操作をどうするかと言いますと、そういう方の場合は、マウススティックをよく使います。口に棒をくわえて、それを使ってキーを操作します。それからもう一つ。デスクトップのフルサイズのキーボードになると、マウススティックを使うのもすごい範囲をしなければいけなくなります。首だけですと体が動くわけではありませんので、少しキーボードが大きすぎると。その場合は、小さめのキーボードを使うということです。これはたしか第1回の講習で梅垣君がしましたね。あそこの会社のテクノツールが作っている小型キーボードですが、このぐらいのサイズでしたら立てておいてあげればきちんと首が届く範囲に操作ができるといった方法があります。
 
**音声入力**
 先ほど少し質問が出ましたが、音声入力という方法も今、出始めています。かなり認識率も上がってきています。少し前までは、誤入力や誤認識が多くて話にならなかったのですが、だんだんと実用的になってきたのではないかと思っています。自分自身はそれを直接お勧めしたことはありませんが、試していただいたことはあります。音声入力の場合は、キーボードをたたく必要もないですし、すごくいいのですが、それでも100%認識してくれることはあり得ません。自分の発音の問題もあるかもしれないですし、日本語の場合は特に同音異義語が多いですから、「違う、違う。そっちの漢字じゃない」ということがあるわけです。ですから日本語はそういう意味ですごく難しいものがあります。ですからその場合に、訂正をする方法といったことが必要になってきます。音声でももちろんViaVoice(ビアボイス:IBM製)などを使うと訂正はできるわけですが、そのためにカーソルを動かして「一字削除」、「バックスペース」などを言って消していくことはすごくかったるいです。自分の今の感覚では、やはり音声入力以外の操作も用意はしておいて、訂正はそちらでするとか、音声でざーっと文章を読み上げて、それで間違っているところだけは何かしらのキーボードの操作で訂正するとかという、多様な入力方法を使ってお互いを補い合うということが今のところはベストではないかと思っています。
 マウスの操作では、頸髄損傷の中でもC−5、C−6と言われている人で、指先の動きはないですが腕の動きが十分にある人の場合には、ジョイスティックのマウスは使えます。ボタン式のマウスも使えます。
 
**ヘッドマスター・プラス**

 現行商品だと思いますが、アクセスインターナショナルで輸入している商品で「ヘッドマスター・プラス」という機械があります。これは頭にヘッドセットをかぶって、そこから3点、超音波が出ていて、その超音波の音が跳ね返ってくる早さを識別 することで今どこに頭が向いているかというのを判断して、マウスのカーソルを動かす機械です。高いです。17.5万円といった機械です。首の動きが十分ある人の場合はそういう方法もあります。少し見づらいかもしれませんが、ここにストローが刺してあって、息を吹いてクリックのスイッチを押すという機械になっています。
 
**筋ジストロフィー**

 それからもう一つ、筋ジストロフィーについて少しお話しをしておきます。自分もたまたま筋ジストロフィーの方と何人かかかわっているということもありまして、取り上げています。筋ジストロフィーという病気を知っている方は聞き流してほしいのですが、全身の筋肉の力がだんだんと低下していく病気で、先天性だと言われています。進行性の疾患です。ですから徐々に悪くなっていく。徐々に筋力低下が進んでいきます。いろいろな、いくつかの型がありますが、特に進行の早いと言われているデュシャンヌ型は出生して歩けるようになる年齢から歩行障害が出ていて、徐々に中枢に近い大きい筋肉、足の筋肉、腕の筋肉などから筋力低下が進んでいきます。移動には早い時期から車いすが必要になってきます。昨日の夜、NHKの番組見ましたか? たしか筋ジスの人だと思いますが・・・。そして、呼吸筋がまひしてくるということで、その段階で人工呼吸器が必要になってきます。比較的、指などの末梢の筋肉、小さい筋肉はかなり後のステージまでは残ると言われています。
 
**キーボード操作では手を動かせる範囲がすごく小さくなってしまいます**
 筋ジストロフィーの方の場合、進行していくと上肢の筋力低下でキーボードもマウスも力が足りなくて動かせなくなってきます。腕も重力に負けて持ち上げられなくなります。キーを押し下げることも筋力低下が進むと難しくなってきます。筋ジストロフィーの方の場合は小さな力しか出ないのですが、それを反復させる早い動きは比較的できると言われています。ただ、最終的には本当に限られた数のスイッチの操作がかろうじてできるという状態が一般 的です。その場合、特にキーボード操作では手を動かせる範囲がすごく小さくなってしまいますので、小型のキーボードが有効です。できればもっと小さいキーボードです。
 それから、キーボードカバーも大切です。脳性まひの方が必要なのとは違って、手を持ち上げるとことができないので、キーの上に常に手を置いておかなければなりません。置くと、キーがガチャッと押される可能性がありますので、キーボードカバーを掛けて少し浮かせておいてあげると、指探りで、指づたいで手を動かして、そのキーの位 置に来たら指を入れてキーを押す。そういう使い方で、リストレストというよりはハンドレストです。手で上に置いて休めるというような使い方になります。
 マウス操作ではできるだけ小型で軽量なマウスを使ってあげることによって、かなり長い間マウスの操作ができます。本当に小さな力でマウスが動くようになります。
 
**スティックポイント、ドラックポイント、マウスパット、ハンディマウス**
 小型のジョイスティックやIBMのノートパソコンなどにスティックポイント、ドラックポイントという真ん中にピンが立っているマウスがあります。それを押してグリグリッとするとマウスが動く。そういう小型のジョイスティックなどの利用も有効です。
 それから、ノートパソコンに付いているようなマウスパット自体を入力方法に使うということも有効です。軽い力で動かせるということです。
 それから小型のジョイスティックという意味では、今は製品が変わっていますが、ビクターが出している「ハンディマウス」というものです。今の物は別 にスクロールが付いているか何かでまた少し大きくなっていますが、ここに小さいジョイスティックが付いています。これはプレイステーションに付いているジョイスティックと一緒です。軽いジョイスティックで、これとクリックボタンを使って操作ができます。
 今ので一応ひととおり、疾患別の傾向と対策を大急ぎでしました。あと、写 真などを説明していきます。
 
**エルゴレスト**
 フィンランドからの輸入品ですが、もともとはヤマギワ電器が扱っていました。日本アビリティーズで入手できると思います。「エルゴレスト」という器具で、腕を置くと自由に腕が動くというOA機器です。この手のものは何種類かあります。やはりこういうパットが付いていて、腕をガラガラッと滑らせられるような機械。それからもっと簡単なものになると、リストレストという、ウレタンのクッションのパットみたいなものを1個置いておくだけでも、操作が全然変わると。この間、リュウマチの方の操作を見たのですが、その方も節々の痛みがすごく強いので、そういったリストレストみたいなものを置いてあげることによって、痛みが少し軽減して、少しだけ長い時間使えるということがありました。
 
**ものすごく小さいマウス**
 これも少し見づらいかもしれませんが、この方が使っているのはマウスです。光学式で、ものすごく小さいマウスです。動かすのもすごく小さな力で動かせます。昔よく使った電話台を知っていますか? 電話機を置いて、オフィスの机の上などでガラガラと回したりできるようなものがあるのを知っていますか? 必要があればガチャガチャと伸ばせるようになっています。それを使って、それに台をはり付けて、そこにマウスパットを付けます。そうすると腕の角度や高さ関係がピッタリときて、その上で手が動くという形です。その人はウェルドニヒホフマンという病気の方です。
 
**ジョイスティック**
 これは先ほど言いましたジョイスティックで、ここにレバーがあります。この人は長いレバーのジョイスティックを立てています。上の形状もジョイスティックは大抵こうなっていますが、ここのところもその人の持ちやすい形状に変えてあげることで、いろいろな人が使えるようになります。この人の場合は、「トーキングエイド」という機械で知っている人もいると思いますが、こういう機械を小型のキーボードとして活用しています。
 
**トラックボール**
 これは、前のパソボラカンファレンスでも見せたので知っている方もいると思いますが、筋ジスの方で、ほかの病院の方でもこういう入力をしている人を見つけたので、割と一般 的な話だと思ったのですが・・・。真ん中にあるのがトラックボールです。トラックボールというのは、マウスをひっくり返したような格好になっています。これは割と有名なトラックボールです。ケンジントンというところの輸入品のトラックボールです。光学式のトラックボールになっているので、ものすごくボールが軽いです。ボールが大きいので操作がしやすいです。それから、このスイッチも4つあって、それぞれに自由に割り当てがきくようになっています。例えば右と左のクリックを付けておいて、上の方にそのクリックをロックするボタンを付けておいてあげると、カチッと(ロック)してコロコロとするとドラッグができるというものです。少し高いですが。
 それから、この人の場合は台で手首を少しかさ上げして、割りばしを持って、高い位 置から下に向けてキーボードを押す。手首の位置を少し上げて、その位置でキーボードが押せます。低いと上に向けなければいけないので、重力に逆らう方法になってしまうので難しくなります。(写 真の方が使用しているのはロジテック製のマーブルマウス)
 
**スライドポイント**
 それから、この人も筋ジスですが、この人の場合、「スライドポイント」というものを使っています。「スライドポイント」というのは通 研電気工業が開発したものです。あとでお時間のある方は触ってみてください。これだけの機械です。ここに付いているボタンのようなものが前後左右に1ミリくらい動きます。1グラムぐらいの重さで動いています。これを動かすと、動いた方向にマウスが動くという、本当に小さな力で、小さな動きでマウスの操作ができるという機械です。ただし、8方向など動かそうと思うと、どうしても進んでくると動く方向が限られてきてしまいます。どうしても全部の方向に指が動くとは限りません。ですから適当に斜めに動かせる方向に動かしながら、機械の方をごまかしながら、「本当はこっちに向いているんだよ」としながら(笑)、前後左右に動かすということが必要な場合もあります。このクリックのボタンは、こういう指に巻き付けるこういったスイッチが付いていまして、タッチスイッチになっています。ですからこちらの方も全然力がかからないでクリックボタンを押せるというものです。難点はスイッチがこれしかないということです。別 のスイッチをつなげたりができないので、別のことを考えなければいけません。そういうものを使っている様子です。これは現行商品です。
 
**画面キーボード**
 この方の場合は、キーボード操作を全部あきらめて小型キーボードも使っていたのですが、進行によって小型キーボードも範囲が広すぎて使えなくなりましたので、いわゆる「画面 キーボード」というもの、画面にキーボード、要するに50音表みたいなものを出して、それをマウスで一つひとつクリックしていくことでキーボードをしたのと同じような入力をするというテクニックを使っています。これはやはりいろいろなところで使えるテクニックです。この商品はもうありませんが、「イージー・プロローグ」という、昔NTTコミュニケーションズが出していた商品です。今は、フリーとかのシェアウエアと言われているようなインターネット上でただか安い値段で手にはいるようなソフトウエアです。そういうものとしていくつか画面 キーボードというものが出ています。最新のものは知りませんが、「一太郎」に使われている「ATOK」という漢字変換のソフトがあります。それにもキーボードが付いています。最新のものは付いていないかもしれませんが、そういうようなものも使ってみるとうまくいくかなと。
 
**「姿勢」-アシスタンド-**
 それから「姿勢」との関係ですが、この同じ方は、寝た状態でもやはりこの「スライドポイント」を使って同じ操作をしていますが、そのときに問題になるのは画面 です。画面が寝た状態でも見られるようなスタンドが販売されています。高さを合わせることができて、角度を合わせて、固定ができます。ベッドサイドでも使えるような、「アシスタンド」という製品でダブル技研から出ています。そういうものもありますので、姿勢によっては使える方もいらっしゃると思います。
 
**日常生活用具のパーソナルコンピューター、情報機器バリアフリー支援事業**
 制度利用について簡単に触れておきたいと思います。細かい話は分かる限り正確にレジュメに書いておきましたので、それを読んでください。一応、全国的な制度ということで、横浜市はもう1つ持っていますが、先ほど言いました日常生活用具のパーソナルコンピューター。その直前に出た情報機器バリアフリー支援事業。その2つで本体と入出力装置も含めた周辺機器をそろえることがかなりできるようになってきました。パーソナルコンピューターは全額出たとして11万8,500円ですので、ノートパソコンというのは少し手が届かないかなという感じです。ただ、やはり重度の障害の方はいろいろと置き場所やベッド周りの環境などを考えると、ノートの方がやはり都合がいいことがよくあります。ですから少し金額的には難しいですが、ただこういう制度ができたことで、要するに半額でも助成があるということになりましたので・・・。
 それから、情報バリアフリー化支援事業です。それについても条件は7ページに書いてあるとおりです。横浜市の場合は基本的に3分の1を自己負担として、最高限度額は10万円までということです。パソコンの本体ではなくて、周辺機器、特殊なキーボードが必要だとか、あるいは次の回で視覚・聴覚の方の話をしますが、例えば画面 が見えないとか、見えにくいので、画面を読み上げてくれるソフトを入れたいとか、そういうものにも使うことができます。
 機器を導入する上での留意点ということでいくつか書いていますが、全部説明する時間がありませんので申し訳ありませんが、割愛します。
 
**機器というものは必ずトラブルや故障が**
 最後のメンテナンスの問題です。機器というものは必ずトラブルや故障が起きます。入れるのは入れたけれども、それを維持するとか、日常的にサポートすることについては何も制度がないわけです。制度どころか、それを日常的に相談する人すらも確保されていないわけです。ですからそこの部分はやはり皆さんにどこの自治体もおんぶに抱っこになるのではないかと思っています。
 
**パソコンのエキスパートに**
 最後に、これはきっと第1回にも言ったと思いますが、もちろん皆さんにはパソコンのエキスパートになっていただく必要があります。今、自分も本当に困っています(笑)。自分もどちらかと言えば強い方だったと思っていましたが、年のせいかだんだんと分からなくなってきました。特に、安定して動くという環境を取るか、最新のものを取るかという矛盾をいつも抱えています。XPもマイクロソフトには言いたいことが100ほどあるのですが、「いいかげんにしてくれ」という感じがします(笑)。特に設定もそうですし、本当に大変です。操作は簡単になったと言われていますが、新しいパソコンを買ってそのまま使えば簡単かもしれませんが、そうではない人は大変です。
 
**今は当然インターネットに接続することが求められています**
 皆さんのところでは、いろいろなことに注意する必要があります。今は当然インターネットに接続することが求められていますから、それに関連することは全部知らなければいけません。例えばISDN回線やADSLを引かなければいけません。その辺も何となく分かっていなければいけませんし、その間には、今度はモデムではなくルーターという機械が入ってくるということも何となく分かっていなければいけません。それから今は、家庭内にLANを使うこともだいぶんと普通 になってきましたので、ネットワークについても何となく知ってないといけません。それからもっと基本として、パソコン本体の機能を熟知していなければいけません。困るときが出てきます。
 いっぱい失敗をしていますが、この間も入れてみると、USBの端子が1個しかなくて、プリンターはどこにつなげればいいのか(笑)ということで、ハブという分岐する機械をわざわざ後から買わなければいけないはめになりました。そのもっと前ですと、マウスの端子がない、PS2という端子はもうない、とか(笑)。USBにみんな変わっているとか。その手のことは日常茶飯事です。その買った機械はどういう機能を持っているのか、どのコネクターが付いているのか、そういう細かいことまで知らなければ、皆さんがはるばるサポートに出掛けて、「これをつなげればそれでおしまい」と思っていたら、とんでもないことになったということはあるわけです(笑)。事前の準備はいくらしても足りないくらいです。
 少し長くなって申し訳ありありませんでした。どのくらい皆さんに新しい話しがあったのか自分も自信はありませんが、本当に日常的に、ご質問などがあればいくらでもおっしゃってください。神奈川の方には入っていませんが、パソボラのメーリングリストには自分も入っていますので、そちらの方に投げていただければ分かりますし、メールアドレスが欲しい方はおっしゃっていただければ無料でお教えします(笑)。以上で終わりにしたいと思います。




*質問*
(寺澤) ではこの後、引き続き質疑応答ということで、何かご質問があれば、せっかくの機会ですのでこの場で聞いていただければと思います。どなたかご質問のある方、いらっしゃいますか。ご質問、もしくは何か感想とか何でも結構です。

(AA) ジョイスティックは厚みがありますね。それの厚みをもっと薄くするとか、そういうことはできますか?

(畠中) 結論はできます。ジョイスティックは氷山の一角で、下に大きな固まりが付いています。ですからどうしてもその厚みがあります。ですのであまり薄くすることはできません。ここ(スティック部分)を切って、高さを低くするということはできます。ただ、こちら側の方は、本当に小型の薄いスイッチが入っているのと、下に1個基盤が入っていてそれでおしまいですので、もっと小さくすることができます。それからあとは、ここはスイッチだけにして、回路は外に追い出して・・・。ですからもう1個ここに箱が付くのですが、ここはすごくシンプルに小さくすることは可能です。そういう改造も全部、ONE・STEP企画さんがしていただけますので、仕様はそちらと相談していただいてできると思います。



(寺澤) ほかに何かご質問等ある方、いらっしゃいますか。いろいろなお話があったので、みなさんも整理することが必要なのかもしれません(笑)。そうしましたら、先生はしばらくこちらにいらっしゃいますし、実際にこちらの機器も、ぜひ皆さん前の方に出てきていただいて、触っていただくということで、こちらのセミナーの方はいったん終了とさせていただきます。
 今、アンケートをお配りしましたが、お時間のある方はぜひご記入をお願いいたします。
 
**パソコン相談会**
 それから、本日、受付でもお話したと思いますが、午後1時半からこちらの横浜ラポール主催でパソコンボランティア団体であるDream Navigator Yokohamaのご協力を得て行っています「パソコン相談会」というイベントがございます。こちらの方もパソコンボランティア活動の在り方の一つとして、ぜひ見学、もしくは参加していただければと思います。参加していただける方は、1時20分までにこちらの会議室にもう一度お集まりください。どうぞよろしくお願いします。
 では、畠中先生に拍手をお願いいたします。今日はありがとうございました。皆さまもお疲れさまでした。 


    この事業は電気通信普及財団の助成を受けて実施しました。

・主 催 
ピアネット、Dream Navigator Yokohama、横浜ラポール
・協 力 
アニモネットワークサークル、川崎パソコンサポートボランティア、 鶴の恩返し、鶴見パソコンボランティア協会、あおばユニバーサル コミュニケーションボランティア、Y−CAP
・資料代  全回/2000円 各回/500円 (各回ごとの参加も可能)
・定 員 第1回/40人 以後各回/20人(障害者のパソコン利用に関心のある方)
・会 場 障害者スポーツ文化センター横浜ラポール 2階大会議室

◆セミナー日程

第1回


3月30日(土)
10:00 - 15:00

《10:00 - 12:30》
 ■「パソコンボランティアを実践するには」
  講師 梅垣まさひろ(川崎パソコンサポートボランティア)
 ■パソボラグループ活動紹介
《13:30 -15:00》
 ■パネルディスカッション(自由参加)
 「これからのパソコンボランティアは?」
 パネラー/梅垣まさひろ(川崎パソボラ)・小川美紀雄(ピアネット
       代表)ほか
  司会/佐々木夏実(Dream Navigator Yokohama代表)
第2回 4月27日(土)
10:00 - 12:00
「肢体障害のある方に必要な援助」
 講師 畠中 規(横浜市総合リハビリテーションセンター )
第3回 5月18日(土)
10:00 - 12:00

「視覚障害のある方に必要なツール・援助」
  講師 佐々木夏実(Dream Navigator Yokohama代表)
第4回 6月22日(土)
10:00 - 12:00
「知的障害などのある方に必要なツール・援助」  
  講師 齋藤憲磁(社会福祉士)
「聴覚障害のある方に必要なツール・援助」
  講師 鵜飼丈太(アニモネットワークサークル)